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スタートガイド

各回のセッションは独立したテーマで進むため、どの回からでも参加できます。 このガイドは、初めて参加される方がプロジェクトの背景にある考え方を掴み、 当日のセッションにスムーズに臨めるようにまとめたものです。

本文中の専門用語にはカーソルを重ねると説明が表示されます。詳しい定義は ボキャブラリーリストを参照してください。


1. なぜ「AI戦略」なのか

1990年代と同じ構図が、今AIで起きている

1990年代にPCとインターネットが普及したとき、多くの企業が「ExcelとWordの活用講座」 「ブラウザとウェブサーフィンの活用講座」を導入しました。それ自体は有益でしたが、 振り返ると、世界を変えたのは使い方講座ではなく、インターネットを前提にゼロから 設計されたAmazon、Netflix、Uberのようなサービスでした。

この30年間で何が起きたかは、時価総額の世界ランキングが端的に示しています。 1995年、上位にはNTT、GE、Shell、AT&T、Exxonなど通信・石油・金融が並んでいました。 2025年、上位はNVIDIA、Microsoft、Apple、Alphabet(Google)、Amazon、Meta。 ソフトウェアとプラットフォームと半導体が世界の時価総額上位を占め、日本企業最上位の トヨタ自動車は51位です。デジタル技術を前提とした事業構造への転換に乗れたかどうかが、 30年後の企業の姿を決めました。

今、AIで同じ構図が進行しています。ChatGPTGeminiを「便利ツール」として使うことは すでに多くの人が始めていますし、AIツール活用の勉強会やカンファレンスもそこかしこで 開かれています。しかし、AIを前提にして事業の仕組みそのものを組み替える段階に 踏み込んでいる企業は、まだ限られています。

本プロジェクトの焦点

「AIをツールとして便利に使う(AI as a Tool)」から「AI前提で事業戦略を構想し 実装する(AI as a Strategy)」への転換。そこに焦点を当てて、抽象的な議論ではなく 自分の手で動くものを作りながら、戦略インパクトを体感する場です。

「どのAIツールを使うか」ではなく「事業として何を実現したいか」が先。手を動かして 毎回動く仕組みを作る。AIの進化に合わせてテーマを毎回更新し続ける。この3つを 大事にしています。

プログラミング経験は前提としていません。ただし、AIに相談して便利に使うだけに留まらず、 AIをシステムとして組み込み事業の仕組みに変える段階まで、各セッションの中で一気に 体験します。その具体的な進み方はセクション3と4で説明します。


2. AI時代に戦略の何が変わるか

セッションでは、AIの使い方を体験するだけでなく、「それが自社の事業戦略にどういう インパクトを持つか」を毎回考えます。そのために繰り返し参照する考え方の枠組みを、 ここで紹介しておきます。

「堀」の中身が変わる

企業が競争で勝つためには、他社にない独自の価値を顧客に提供し、それが 簡単に真似されない状態を作ることが基本です。戦略論ではこれを「堀(モート)」 ——城の防御壁になぞらえます。

AI時代には、この「堀」の中身が構造的に変わります。

かつては「優れたアルゴリズムを持っていること」自体が大きな武器でした。しかしAIの 民主化が進み、誰でも高度なモデルをAPI一本で呼び出せるようになった今、アルゴリズム そのものの競争優位は急速に薄れています。代わりに価値が高まるのは、独自のデータ (自社にしかない情報資産)、顧客との関係(信頼と接点の蓄積)、運用経験 (仕組みを回して初めて得られる知見)といった、簡単にはコピーできない資産です。

「自社は何を武器に戦うのか」「その武器はAI時代にも通用するのか」「AIによって新たに 作れる武器は何か」——この問いが、セッションの議論で繰り返し立ち返る場所になります。

参考:VRIO分析

戦略論の代表的なフレームワークに、自社の経営資源を4つの観点で評価するVRIO分析が あります。Value(価値があるか)、Rarity(希少か)、Imitability(真似しにくいか)、 Organization(活かせる組織か)。AI時代には、この4つのうち特にImitability (模倣困難性)の中身が大きく変動します。セッションの中で「自社のVRIOはAIでどう 変わるか」を考える場面が出てきます。

5 × 5 × 5の枠組み

本プロジェクトでは、AIが事業に与えるインパクトを3つの層で捉えます。それぞれの層に 5つの切り口を設け、合計15の領域を体系的に整理した「5 × 5 × 5の枠組み」を、各セッションの テーマ設定の指針にしています。

5つの切り口
第1層
実装方法
(業務・施策)
[1A] 人間の認知容量の解除 ── AIが全件を読み、見落としを消す
[1B] 人間の時間制約の解除 ── 24時間の対話と即時のソフトウェア製作
[1C] 人間の可能域の拡張 ── 個人の「できない」を破り、専門性を民主化
[1D] 人間理解と接点の深化 ── 一律から一人ひとりへ、本音に届く接点
[1E] 物理世界との接地と作用 ── センサーで見続け、判断を物理世界に返す
第2層
組織変革
(事業組織)
[2A] 情報流通の血流化 ── 議事録・日報・稟議をAIが担い、組織の神経系を作り変える
[2B] 創造的活動の加速器 ── 0→1の活動を併走化し、創造のスピードを常態化
[2C] 組織学習と人材育成の統合 ── 個人成長と組織知が双方向に循環
[2D] 経営の知的オペレーション機構化 ── 分析と意思決定を機構化
[2E] 事業戦略と組織戦略の共転換 ── 事業構造と組織体制の適応を一体で組む
第3層
戦略転換
(産業・事業)
[3A] 顧客価値のシフト ── 価値の定義そのものが書き換わる
[3B] 顧客接点のシフト ── 顧客側AIを前提に、見つけられ選ばれる構造へ
[3C] 差別化資産のシフト ── アルゴリズムから独自データ・関係資産のモート
[3D] 時間軸戦略のシフト ── 高速化と蓄積を使い分け、先行実験を資産化
[3E] 収益構造と戦場のシフト ── ビジネスモデルを根本再設計する

セッションの冒頭で「今日は[1A]の領域を扱います」といった形で参照します。全体像を 暗記する必要はなく、「AIの戦略インパクトを整理するこういう地図があるんだな」という 程度で大丈夫です。セッションを重ねるなかで、各領域の意味が実感として掴めてきます。


3. セッションで体験すること

AIの「3つの使い方」を一気に駆け上がる

セッションでは、AIの使い方を以下の3段階で体験します。1回のセッションの中でこの3段階を 段階的に進め、「個人がAIと対話する世界」から「AIを事業の仕組みとして組み込む世界」への 転換を体感します。

Step 1:AIと対話する

ご自身の事業・業界の文脈で課題を言語化し、AIに考えさせてみる。人間が書いたものと AIが出したものを比較して、補完関係を確かめる。「なんとなく相談」ではなく、背景と 目的を言語化してAIに渡すことで返答の質が変わることを実感します。

Step 2:AIに作らせる(Vibe Coding

AIに「こういうプログラムを書いて」と自然言語で指示し、動くものを作る。例えば 「世界のニュースを自動で集めてくるプログラム」をAIとの対話だけで作り上げる。 プログラミング経験は不要です。用意された指示文をAIに渡し、返ってきたコードを Colabに貼って実行します(手順はセクション4で説明)。

Step 3:システムからAIを呼び出す(API

プログラムの中からAIを呼び出して、大量のデータを自動処理する仕組みを作る。例えば 「集めたニュース100件を、自社の各部署の視点でAIに重要度評価させる」処理が自動で回る。 ここで「個人の便利使い」から「事業に組み込める仕組み」に転換します。APIの仕組みは セクション4で説明します。

どの段階でも最も重要なのはプログラミングの知識ではなく、「何のためにこれを作るのか」 を判断する力です。AIにコードを書かせること自体は手段であり、そこに事業の文脈で意味の ある目的を設定し、出来上がったものの質を業界経験に基づいて判断してフィードバックする ——これが参加者の役割です。

セッション当日の進み方

各セッションは約2〜2.5時間+交流タイムで、毎回独立したテーマを扱います。進め方は テーマに応じて柔軟に変わりますが、おおむね以下のような流れです。

まず、その回のテーマが事業戦略としてなぜ重要かという問いと文脈が提示されます。 参加者自身の業界・役割で課題を言語化し、AIにも同じ問いを考えさせるところから始まります。

次に、用意された指示文やサンプルコードを使いながら、段階的にAIで動くものを作って いきます。AIとの対話で始まり、コードの生成、APIを使ったシステム連携、さらに自動化や アプリ化へと発展させていきます。一つのテーマに対して複数の角度からアプローチし、実装の バリエーションを体験します。

随所で、作ったものをもとに戦略的なインパクトを考えます。「これが自社にあったら何が 変わるか」「他業界ではどう応用できるか」「産業構造の転換にどう位置づけられるか」。 ツールの便利使いで終わらせず、戦略の文脈に接続することを重視します。

終了後に共有される資料一式(映写資料、サンプルコード、プロンプト、発展版コード・アプリの デモ、自習ガイド、Zoom録画)で、当日に消化しきれなかった部分やご都合で参加できなかった 場合の追体験もできます。


4. 当日スムーズに始めるための準備

セッション中は指示に沿って進められますが、以下を事前に確認しておくと当日の立ち上がりが スムーズです。

対話型AIサービス

ChatGPTGeminiClaudeCopilotGrokなど、普段お使いのものをブラウザで開いた状態で 臨んでください。どれを使っても構いませんし、複数を並べて同じ指示を渡し、結果を比較して みるのも面白いです。

有料版・無料版どちらでも参加に支障はありません。無料版は利用上限があり、セッション中に 上限に達する場合があります。その場合は別のサービスに切り替えれば続行できるので、 2つ以上のサービスにログインしておくのをお勧めします。

「指示文」の使い方

セッションでは、講師が作成した「指示文」(AIに渡すテキスト)が随時共有されます。 参加者は、この指示文をコピーして手元の対話型AI(ChatGPT等)に貼り付け、必要に応じて 自分の業界や役職に書き換えて実行します。

指示文を使う流れ

  1. 共有された指示文テキストをコピーする
  2. 手元のAI(ChatGPT / Gemini / Claude等)のチャット欄に貼り付ける
  3. 指示文の中の【事業・業界】【部門・役割】の部分を、ご自身の状況に書き換える
  4. 送信して、AIからの返答を確認する
  5. 返答に対して「もう少し具体的に」「〇〇の観点も入れて」など重ねて指示し、質を高める

指示文ごとに新しいスレッド(会話)を始めるか、同じスレッドの続きに入力するかは、 都度案内があります。

Google ColaboratoryColab)でのコード実行

セッションのStep 2以降では、AIが書いたPythonコードをGoogle ColaboratoryColab)で 実行します。Colabは、Googleが無料で提供するクラウド上のPython実行環境で、ブラウザだけで 動きます。

コードを実行する流れ

  1. colab.research.google.com にGoogleアカウントでアクセスし、「新しいノートブック」を作成
  2. AIが作成したコードをまるごとコピーする(ChatGPTGeminiの「Canvas」機能を使うとコードが見やすく表示されます)
  3. Colabの入力欄(「セル」と呼びます)にペーストする
  4. セルの左にある再生ボタン(三角マーク)を押す
  5. 実行結果がセルの下に表示される。出力ファイルは左端のフォルダアイコンから確認

エラーが出た場合エラーメッセージ(赤い文字)をコピーして、コードを書かせたAIに 貼り付け、「このエラーが出ました」と伝えてください。AIが修正版を返してくれます。 コードの追加セルが必要な場合は、上部メニューの「+コード」を押すと新しいセルが 追加されます。

Colabの操作に事前に慣れておきたい方は、上記の手順でノートブックを開き、セルprint("hello") と入力して実行ボタンを押してみてください。helloと表示されれば、当日の 操作と同じ流れが確認できます。

APIキーについて

セッションのStep 3ではAIをプログラムから呼び出す「API」を使います。APIを使うには APIキー(利用者を識別する認証文字列)が必要ですが、セッション当日は講師が一時的な キーを提供しますので、事前に自分で取得していなくても参加できます。

セッション終了後は、一時的なキーは無効化されます。その後もご自身で試したい場合は、 Gemini APIキーを取得してください(Google AI Studio: aistudio.google.com から、 クレジットカード登録不要・無料枠で利用可能です。手順は付録に記載します)。

取り扱い注意

APIキーはパスワードと同じ扱いです。AIへの入力に含めたり、共有フォルダに置いたり すると、第三者に使われてしまう可能性があるため、管理にはご注意ください。

Googleアカウント・PC

個人のGoogleアカウント(〜@gmail.com)をご用意ください。Colab、資料共有(Googleドライブ)、 Gemini APIの利用で使います。法人管理のPCをご利用の場合は、個人Googleアカウントにログイン できる環境かご確認ください。

Zoom接続可能なPCをご用意ください。OS(Windows / Mac / Linux)は問いません。カメラは 必須ではありませんが、講師にとって話しやすいためなるべくオンをお勧めします。


5. 付録:もう少し詳しく知りたい方へ

Gemini APIキーの取得手順(任意)

  1. aistudio.google.com にGoogleアカウントでアクセス
  2. 最初に表示される規約に同意して「続行」
  3. 画面左下の「Get API key」をクリック
  4. APIキーを作成」をクリックし、プロジェクト名を入力して「キーを作成」
  5. 表示されたAPIキーをコピーして、安全な場所に保存

クレジットカード登録は不要で、無料枠の範囲で利用できます。Colabでの設定方法は、 セッション資料のAppendixで詳しく案内しています。

APIの仕組み

APIはApplication Programming Interfaceの略で、プログラムからAIサービスを呼び出すための 仕組みです。チャットでの利用が「自分でレストランに食べに行く」ことだとすると、API利用は 「出前の注文をまとめて100件出す」ようなものです。人間が毎回画面を操作しなくても、 プログラムが自動で問い合わせと結果の受け取りを繰り返してくれます。

セッションで使うGemini APIは、無料枠として1分あたり10リクエスト(RPM 10)などの制限が あります。プログラム内で間隔を空けながら呼び出す設計にすることで、無料枠の範囲内で十分に 使えます。

主要AIサービス一覧

サービス URL メモ
ChatGPT (OpenAI) chatgpt.com 最も利用者が多い。Canvas機能でコード生成の精度向上。
Gemini (Google) gemini.google.com Google連携が強み。APIの無料枠が比較的寛大。
Claude (Anthropic) claude.ai 長文の読解に強み。200Kトークンコンテキスト窓
Copilot (Microsoft) copilot.microsoft.com Microsoft製品との連携。実質無制限の利用。
Grok (xAI) grok.com Xアカウントと連携。最新情報の反映が速い。

セッションで登場するAI・技術・戦略関連の用語を平易にまとめた ボキャブラリーリストも用意しています。セッション中に知らない言葉が 出てきた際にご参照ください。


本ガイドの内容は2026年6月時点の情報に基づいています。お問い合わせ: support@antecanis.com